寺山修司の短歌 72 空のない


空のない窓が夏美のなかにあり小鳥のごとくわれを飛ばしむ

『寺山修司全歌集』(1971年)

夏美という女性が実在したかどうかは知る由もないが、
「空の(見え)ない」閉塞感に満ちた「窓」を心の中に持つ夏美が、「小鳥のごとくわれを飛ばしむ」のは「空のない窓」の中でしかない。

この「夏美の空」は、非現実的で閉塞感や絶望感に満ちていながら、どこかカラッとした明るさがある。

また、寺山は同じ世界観のこんな歌も残している。

空のない窓が記憶のなかにありて小鳥とすぎし日のみ恋おしむ


上の歌と同様、「空のない窓のように閉塞感に満ちた記憶の中にあって、小鳥と過ごした日々だけが断ち切り難い恋しさを残している」というのだが、この「小鳥」は実在せず、空想世界の小鳥であることは言うまでもない。

尚、「恋惜しむ」とは、(ただ恋しいだけではなく)去った後に小波が残るほど恋しいことで、文学的な表現である。

by 寺山修司(てらやま しゅうじ)  

青森県出身の歌人、劇作家   
演劇実験室「天井桟敷」主宰   
言葉の錬金術師、昭和の啄木などの異名を持つ

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